例えばそれは隣に並んだ時に
例えばそれは話す時の視線に
ふと感じる時間の経過
05.身長差
「「ーっ」」
『なぁにダンテ、バージル?』
「今日一緒に公園に行こう!」
『うん??』
「うーん、何ていえばいいのかな?」
「わかんない。でも大丈夫、僕らが連れて行けばいいんだ」
何を話しているのかわからない二人の顔を見つめていた。
真っ直ぐ、自分の目線の延長線上にある青の瞳がとても綺麗でいつも見ていた。
「「行こう、」」
差し出されるのはダンテの左手とバージルの右手。
言葉が通じない不安なんてその手の前では吹き飛んでしまう。
「うんっ」
何処に行くのかわからないまま、私は二人の手を取って一緒に走り出す。
絶対に離れないようにきつくきつく結んだ手と手のはずだった。
離れてしまう日が来るなんて想像もしてなかったのに。
「おーい、?」
名前を呼ばれたことで飛ばしていた意識を現実に引き戻す。
手に持っているフライ返しが目に入って自分が料理の途中だったとことを知らしめた。
「っ!焦げる!!」
今日は簡単にホットケーキを焼いている所。
慌ててひっくり反すとほんのり黒くなったそれが顔をだした。
「……あー…」
「大丈夫だろ、これぐらいなら喰えるって」
肩を落とす私の側で気にするなと笑ってみせるダンテ。
「……」
「料理中に呆けるとは珍しいな…」
いつの間にか隣に並ぶバージルが手を伸ばしてきて額に当てる。
別に体調が不具合なこともないのでそっとその手を押し返した。
「大丈夫、元気だから」
「ならいい」
「……」
もう少しで焼きあがるホットケーキの匂いがキッチンを満たす中で二人は側を離れず並ぶ。
嫌ではないのでそのまま、気にすることなくフライ返しで焼き具合を確認。
あとちょっと。
今のこの並びの状態は私が真ん中で後ろから眺めればデコボコになってるんだろうなと思った。
もう二人の綺麗な青は首を持ち上げなければ見つめられない。
確かにあの頃は頭の位置も平行線。
目線だって真っ直ぐのままでよかったのに。
いつの間にか出来てしまっていた差。
違和感を覚えずにいられないもの。
それがどれだけの時間を離れて過ごして来たのか、正確でないにしろ物語っている。
目を瞑れば――
「ねぇ、は何したい?」
『あれっ』
「ブランコ?いーよ、行こうっ」
二つ並ぶ乗り物にダンテと私が手をかける。
ダンテは立ったまま漕ぎ始めて鎖がきぃきぃ悲鳴をあげた。
木の板に腰を下ろして勢いのつかない私の背中をバージルが優しく押してくれる。
――簡単に、ありありと思い出せるのに。
長い時間が私と二人を隔てた間に何があったのか、どんなことがあったのか。
喧嘩しても仲が良かった彼らの関係も少し、変わってしまったらしい。
なんだかギクシャクしているというか。
寄り添えないような溝でも間にあるような。
ふとたまにそんな事を感じる。
でも何があったのかは聞かない。
聞いたところで時間は巻き戻したりすることは出来ない。
「っと」
危うくもう一面まで黒く焦がしそうだった所でフライパンを火から下ろした。
ダンテにお皿を取ってもらって焼きあがったものを移すと三人でテーブルに着いた。
中央に置かれたお皿に残ったホットケーキはあと二枚。
もう食欲は十分に満たした私はナイフもフォークも皿に置いていた。
テレビに目を向けていても宣伝の文句は耳を左から右へ。
溜息がこぼれそうになる前に赤い腕がホットケーキを一枚さらっていた。
バターをたっぷり塗りこんだそれに綺麗な琥珀色のメープルシロップが流れていくのを横目で見た。
大きめに切り分けて豪快に食べる様子はなんとも幸せそうで。
ホットケーキでそんな表情をみせてくれるならまた作ろうとなんとなく思った。
視線を元に戻すと中央の皿が空になっている。
さっきとは逆の方向に視線をやるとバージルが黙々とブルーベリージャムを塗っていた。
一口ぐらいの丁度いい大きさに切って口へ運ぶ様はとても貴族的で。
ホットケーキでそんな雰囲気を味わえるならまた焼こうとぼんやり思った。
霞みかかった思考の私に一仕事終えた食器達が「早く洗え」と訴えてくる。
ふぅ、と軽く息を吐き出してその要求に応えようと腰を持ち上げた。
片づけを手伝おうとする二人には大人しくテレビを見ているように促して一人でシンクに立った。
水音というのは案外煩いもので、向こう側でなにやら双子が話しているらしいが内容までは聞こえない。
食器の数は少なくとも洗い終える頃には手がうすら赤く染まっていた。
タオルで強く水滴を拭き取っているとバージルが声をかけてきた。
「、出掛けるぞ」
「私も一緒に?」
首を縦に振る彼にもう一つ質問を投げかける。
「何処行くの?」
「んー、イイトコロ」
答えたのはダンテの方でおまけのウィンク付だ。
どうもその様子では行き先を私に告げる気はないらしい。
気が付くと自分の口角が持ち上がっていた。
ただなんとなく二人の雰囲気が昔と重なって見えて。
妙にモヤモヤしていた感覚が薄れていった。
空いてしまった時間を悲しむ事はない。
今また出合って側にいられるのだから。
二人に溝があるみたいに見えるなら私が間に飛び込んで二人の両腕を掴んで繋ぎあわせればいい。
大丈夫、私達は私達の時間を取り戻した。
これからで動かしていくんだ。
三人の道が重なり続ける限り。
どうかその道が、いつまでもどこまでも――
おじいちゃん、おばあちゃんになるまで――
「「」」
変わらない、差し出されているダンテの左手バージルの右手。
盗るように結んだ手は強く握り返された。
――重なり続けますように。
この幼馴染設定、結構突発的に書き始めたようなトコロもあったんですが
何とかお題一通りを書き終えることが出来ましたっ
もう自分ほとんど自分の中で出来上がっている雰囲気が気に入ってて
ヒロインどっちつかずだし、そんな甘くないし、
書いてる自分だけが殆んど楽しんでるような状態だったやも。
すみません、管理人はこんな雰囲気にたまらなく弱いのです。
その自分のお気に入りの雰囲気をちゃんと伝えられるような文章も書けず
もどかしい部分もあったんですが、
それでもこの夢がちょっとでも誰かの中に何かを残せたなら。
幸せだなぁと、思いつつ読んで下さった方々に最大の感謝を。
本当にありがとうございました。
で、同じお題配布サイト様にはまだ幼馴染シリーズがあるので
まだこのシリーズにご支持があるなら是非続き書きたいと思ってたり…(笑)