日曜日の朝一番。

 
 前の日に予告した通りの時間に顔を出すとまだ眠そうな目のダンテが新聞を読んでいました。

 








 「…ダンテ似合わないね」


 「開口一番それかよ」


 俺だって新聞ぐらい読むと苦笑いを浮かべるダンテに笑い返して朝の挨拶。


 ふと周りを眺めても見当たらない人物のことが気にかかって尋ねてみる。


 「バージルまだ寝てるんだ?」


 ここに住むもう一人の住人で彼の兄の姿がない。


 全てにおいてそつなく無駄なく行動していそうな彼だが朝にはめっぽう弱かった。


 相変わらず朝に弱いんだねと呟く。


 「多分それだけじゃねぇよ。


 アイツ昨日仕事で明け方帰ってきたんだ」


 ダンテの答えになるほどと納得するより先に仕事という言葉に顔を顰めてしまった。


 少し前だが、二人がどんな仕事をしているのか教えてもらった。


 聞いたときは何かの冗談かとも思ったが話す時の口調といい眼差しといい嘘を言ってる様には見えなかった。



 内容はなんとも危険の伴う仕事で正直あまり好感の持てるものではない。


 「…怪我、してない……?」


 俯いて発した小声はダンテに届くか心配だったが大丈夫だった。


 「大丈夫だって、ちゃんと帰ってきてんだから」


 な、と伸びてきた腕は無造作に私の頭を撫で回す。


 髪型をめちゃくちゃに乱す手を振り払う事も忘れてダンテを見つめる。


 「…あんまり心配かけないでね」


 気が気じゃないんだ。


 ダンテにもバージルにも怪我なんてして欲しくない。


 「……わかった」


 一瞬だけ目を見開いた彼はすぐに照れたように笑った。


 その表情があまりに綺麗で心臓が跳ねる。


 誤魔化すように逸らした視線はいつの間にか机に置かれた新聞と大量の広告。


 その広告の厚みといったら新聞の三倍はありそうな。


 派手に彩られたそれ、他のものより二周りは大きいそれ、淵を波にかたどったそれ。


 質や色、形の違う紙が一つの山を織り成している。


 「大量だね」


 「日曜は多いんだよ」


 「広告コレクターさんに売るといいよ」


 「そんな奴いるか?」


 いるかも知れないよと笑いながらその山を崩して数枚手に取る。


 緑の濃い紙が綺麗でそれを抜き出す。


 画用紙とまではいかないがそこそこ硬めな質の紙。


 「…ダンテ、机借りますよー?」


 「ん、別に構わないぜ」


 駄目っていわれても借りる気で尋ねると良い返事が帰ってきた。


 机の隅っこの方でその緑の広告に手を加えていく。


 様子を見ていたダンテはその作業の中盤をみて何をしているのかわかった。


 「あ〜、昔よく作ったな」


 「ダンテ上手だってもんね、と。ジャン!」


 完成品を高く掲げる。


 緑の紙は空を横切る飛行機。


 紙が長方形だから少し形が歪なものだけど。


 「ほっ!」


 力いっぱい投げたそれは空気を切りながら進んでいく。


 ものすごい速度で下に。


 「……相変わらず下手な」


 尖った先が床に叩きつけられた音の後にダンテが一言評価をくれる。


 「…形が形だからしかたないのっ」


 私の言い訳を聞いたのかそうでないのかは知れないがダンテも広告をあさり始める。


 先の広告と似た質のそれを見つけると手本を見せてやると折り始めた。


 私も負けじと広告を選んで折っていく。


 一足先に出来たダンテの桃色飛行機もやっぱり長方形のせいで少し形が変。


 しかもあまり丁寧に折られていないのでさらに滑稽な形だ。


 「見てろよ」


 ニヤリと笑って紙飛行機を構える彼はとても子供っぽい。


 なのにどこか決まって見えるのは元よりのダンテの気質なんだろう。


 ごつごつした大きな手がゆっくり機体を送り出す。


 描かれる放物線は緩やか。


 水平な体勢を保ちながら床に擦り寄るように静かに着陸する。


 「………」


 驚いて言葉がでなかった。


 紙飛行機がこんなに綺麗に飛ぶなんて、そんなことずっと忘れていた。









 

 「それっ」


 『うわぁーだんて上手だね』


 一生懸命に手を叩けばちゃんと伝わったみたいでダンテが嬉しそうに笑う。


 『もう一回!もう一回投げて』


 「ん、何?」


 『えっとね、えーっと…わんす、あげいん!』


 人差し指を立てて教えてもらった英語を思い出す。


 「いいよ、待って」


 また折り紙を取り出して折り始めるダンテの隣で次の放物線を胸の中で思い描く。


 でもそれはやっぱりただの想像でしかなくてただの虚像だ。

 
 再び鮮やかな折り紙が空気に色を残しながら真っ直ぐと。


 本物は何度もその浅はかな想像を塗りつぶしてくれた。

 









 その感覚が今、また胸に返ってきた。


 「ダンテ」


 視線を紙飛行機からその人に。


 目がかち合う前から彼は口元を緩ませていて。


 「もう一回、だろ?」


 その通りですと微笑む私と、わかってると微笑む彼は同じ表情だった。


 広告の山はもう崩れて川になる。


 もう紙の質など選んでられない。


 二人の手は手に触れた紙を取っては折り上げ空気を染める。


 「うあ、また落ちた…」


 「は力入れすぎなんだよ」


 軽く空気に乗せる感じでいいという助言に従って投げればさっきよりは遠くへ飛ぶ。


 「おー!凄い今のは飛んだよ、ねっ」


 「まぁな、でも俺のに比べたらまだまだだけど?」


 見下した発言と目線を睨み返す。


 「見てろー、絶対あの扉まで飛ばすんだから!」


 まだダンテも届いてない向こう側の扉まで。


 「大きく出るねぇ、そんな足元ぐらいしか飛ばせないのに」


 「いいや、今に飛ばすよ」


 開始の合図は特になし。


 二人が投げれば投げるほど空気はほんの一瞬その色に染まる。


 その一瞬の放物線が目的地に届くまでひたすら飛ばすだけ。


 私と彼の間に笑い声は絶えない。






 

 起きて来たバージルが床一杯に落ちている広告に絶句するのはもうしばらく後。

 

 

 想いを乗せて飛ぶ只の紙切れ 
 忘れたくないのは 
 只の
紙切れだという事実 
 夢に見るのは 
 どこまでも
落ちない放物線 
 君の描く彩りよ 
 
どうか鮮やかにどこまでも 



 お題の幼馴染夢、紙飛行機でした。
 これは見たときから「あ、ダンテだ」って決まってました。
 書いててたのしかったです、ダンテは似非ダンテになってしまっていますが(苦笑)
 紙飛行機とか、しゃぼん玉とか、そういう子供をイメージさせるものを大人がやるのが大好きです。

 とっても素敵な絵だと思うんだけどなぁ。
 私だけなんだろうか??(笑)
 ↓は、お兄タンが起きて来てしまいましたっw







 「………」


 「あーっ今の綺麗に飛んだ!見た!?」


 「あぁ?見てねぇけどが俺より上手く飛ばせるわけねぇだろ?」


 「…………」


 「わかんないじゃない、それはダンテの思い込みだよ」


 「扉には届いてねぇんだろ?ん?」


 「…そうだけど」


 「俺はもうちょいで届くからな、見てろよ」


 「………、ダンテ」


 「あ、バージルおはようっ」


 「もう太陽が真上に昇るぜ?とんだオ寝坊サンだな、お兄ちゃんよ」


 「……何をしていた」


 「「紙飛行機」」


 「……そうか、じゃあ自分達の周りをよく見ろ」


 「…わぁー……」


 「ヒュー、綺麗に色塗ったみたいな床になったな」


 「よくこんな数を飛ばしたものだ」


 「う、うん、楽しかったので…」


 「アンタも早く起きてくれば参加でき「さっさと片付けろ」


 「「…はーい」」