我らが強引な主、鬼若子とも呼ばれるその人が彼女の手を引いたのは
もう半刻と待たずに日が沈んでしまうような時間。
「ー」
許可も無く開けられた障子には特別驚かない。
彼のそういう行動に既に慣れている為、普通にそれに振り返り返事をした。
「はい?どうかした、元親」
主である元親に敬語を使わないのは彼女が幼い頃より側に仕えていたから。
本人は一度改めて敬語を使っていたのだが
元親の「お前は敬語とか使うな」という一言で止めてしまったという経緯がある。
遠慮無しにどかどかと部屋に入り込みの側まで来た元親。
「行くぞ」
「ん?何処に…」
そう投げかけたかと思えば彼女の腕を掴んで立ち上がらせる。
なにやら訳がわからないは彼にひこずられる形になっていた。
何処に行くのかが問いただしても耳に入っていないのかただ前を向いて進んでいく。
にとって足の長さや歩幅が違う元親に付いて行くのは一苦労だ。
垣間見える横顔が何か楽しそうなものだったのも付け加えては黙って彼に付いて行った。
雪が降ってもおかしくないような気温のせいで歩く廊下は冷たい。
迷う事など勿論無い足取りが長い廊下を通り縁側へ出る。
そこに用意されていた足袋を履く間も元親は手を離したりしない。
本当はそれのせいで履きづらかったりしたのだが、密かに元親を想っているは離せとはいわなかった。
庭を抜けて表の馬屋に着くと元親が一頭の馬を引いて来て後ろに乗れという。
戦女のも馬ぐらい繰れる。
そういって馬を取りに行こうとするのを元親は許さなかった。
「いいから後ろに乗れって」
強く言われては逆らえない。
大人しく後ろに横乗りして申し訳程度に元親の腰に腕を回す。
「おめぇ、それじゃ落ちるだろーが」
ちゃんとつかまれと手の位置を指導される。
「…元親ー」
「なんだよ?」
「……いや、少しだけ、ね。照れるなぁって…」
しっかりと腕を回された結果、元親の背中に隙間無く密着している。
寒さ以外の要因での頬に熱がまわっていく。
「はっはー、今更だ、気にすんな!」
笑い飛ばすと元親は馬を走らせ始めた。
振り落とされないようにしっかりと元親にしがみついたが、
心中ではどうかこの動悸に気付かれないようにと願った。
馬に乗るという事はかなり遠くまで行くのだろうと踏んでいたの考えは外れる。
「ここ?」
「おう」
馬を止めた場所は城からそう遠くない富嶽近くの浜辺だった。
元親が下りたのに続くと砂の感触が心地よかった。
改めて手を取った元親が足跡を残しながら進む。
自分もしっかりと足を動かしながら後ろを振向く。
元親の一歩分にの足跡が二か三歩分の足跡が並んでいる。
そのことが妙に嬉しくて無意識の内に笑った声は波の音に飲まれて手を引く元親には届かなかった。
進んでいった先にあった大きな岩を前に先導者の足が止まる。
余所見をしていたはその背中にぶつかる手前で静止した。
「元親?」
見上げるとその人が振り返る。
「いいもん見せてやる」
既に太陽は沈んでそこは暗闇のはずなのにニヤリとしたその表情がはっきり見えるのは
彼がその背に携えた銀色の半月のせい。
同じ銀の髪が淡く揺れてしばらく見惚れる。
潮の匂いが混ざる強い風が二人に吹いた時、その笛に似た音が耳を刺激した。
ひゅるるるる―――ぱんっ
その音源を視覚として捕らえたは自分の目を疑った。
暗闇の中に浮かぶ夕日の色に近い赤。
それが大きく広がり散る様はまさしく華。
「……は、花火?」
驚きで口が開きっぱなしのの小さな呟き。
まだ半信半疑なのか語尾は疑問系だ。
「おうよ、綺麗だろ?」
元親はそれを肯定しながらの表情を楽しそうに見ている。
感動と困惑が入り混じったなんともいい難い表情をしたは何故花火がと口にする。
「何となく想いついてな、いつかやってやろうってよ。
富嶽使って打ち上げてんだぜ?」
―気まぐれに何を?
―富嶽をこんなことに使っていいの?
そんなことがの頭を過ぎりはしたのだがそれよりも別の感情の方が勝っていて何も言えなかった。
青から緑、紫、黄と空を次々彩っていく華をただただ見上げる。
「悪かねぇだろ、冬の花火ってのも」
視線は空へと注いだまま隣で手を引いているにいう。
「うん、悪くない」
も花火から目を逸らさないまま。
「けど強いていうなら――寒い」
冬の海辺は風が冷たい。
呼吸すれば口元が白く濁る程の気温。
花火に気を取られてはいても体は確かに熱を失っている。
正直に感じ取っていることを付け足すとぐいと腕を引かれた。
突然のことに驚きの声はでてもその力に抗うことはない。
背中に何かあったたと思うと自分の肩から腕が伸びてきて丁度自分の胸の前で結ばれる。
「じゃあこれで完璧だな」
声がするのは自分の頭の真上。
「………っ…」
自分の置かれた状況を整理した途端、は林檎のようになる。
それに気付いた元親はまたニヤリと笑いながら尋ねる。
「なんだ、まーた照れてやがんのか?ん?」
元親がどんな表情をしているのか声色でわかっているのだろう。
焦った口調のは「花火のせい、花火のっ」と言い返していた。
くつくつと笑い続ける元親もそれに膨れるも目線だけは季節外れに咲く大華。
咲いては散りを繰り返す光は浜に一つだけの影を落としていた。
夜空が静かになってから城に戻ると今度は庭先まで連れて行かれる。
「締めくくりといやぁコレしか無ぇだろ?」
元親の取り出した小さな数本の花火には再びきょとんとして満面の笑みになる。
勝負を持ち出したのはから。
賭けに持ち込んだのは元親から。
どちらが長く華を咲かせていられるか。
同時に着けた火は火花を瞬かせながらゆらゆらと。
暖かい夕暮れ色の光に表情を染められる二人。
勝負の行方がどうだったのか知る人はない。
ただ二人で賑やかに戯れているのを家臣たちが遠巻きに見ていたとか。
夏香ル
初・元親夢でした。
何かヒロインのポジションが偉く政宗に似てる気もしますがまぁいいや(いいのか)
喋り口調や性格は全く違うんで大丈夫かと。
(こっちはより大人しくて女の子らしい子になっています。)
んで、元親といえば「富嶽」なんでこんな夢になりました。
花火とか派手な事好きそうですし。
後、元親はひとつの事に集中し始めると周りが見えにくい質だろうなと。
だから普通のときはヒロインに歩幅合わせて歩いてくれるんですけど、
今回は早く花火見せてあげたくてスタスタ歩いちゃったんです。
ヒロインはまぁ手を引いてもらってるし慣れっこだから平気、と。
もっと馬鹿っぽい鬼書きたいなぁ(夏に花火な時点で十分かしら?)
後最後に元親が取り出した花火って線香花火なんですけど
ちゃ、ちゃんと伝わってるかな?(ソワソワ)
下は線香花火での勝負中の会話です。
「元親勝負ね、先に落としたら負けー」
「ああ、いいぜ。負けた奴は勝った奴のいうこと何でも聞くんだぞ」
「む、何?元親私に勝てると思っちゃったりするんだ?」
「あたりめぇよっになんか負ける訳無ぇ」
「やだなぁ、いくら私でもガサツな元親様には勝てるよ」
「いったなコノヤロー。覚悟しとけや」
「じゃ、行くよ。せーのだよ、ズルしたらその時点で負けね」
「誰がするか、馬鹿」
「「せーのっ」」
「おーおー、もう揺れてんぞ、」
「え、元親の方が揺れてるよ」
「負け惜しみかぁ?ほれ、さっさか落としちまえ」
「あっそんなこといっちゃう姫若子が落とすんだよーだ」
「てめぇ、姫っていうんじゃねぇっ」
「あ、ホラホラ姫さん、余所見したら落ちちゃう」
「チッ…、あと覚えてろよ」
「へ?私何もいってないよ、姫さん」
「今現在いっただろうが」
「綺麗だねぇ」
「最後には無視か……」
「「あ…」」
「っくしょー、負けだぁっ」
「やたぁっ勝った勝ったーっ!!ねぇねぇ、何でも良いんだよね?」
「ん?あぁ、二言ねぇよ」
「じゃあねー…来年もまた冬に花火やろうね」
「………」
「…ね?」
「おぅ、その願い叶えてやらぁ」