数える子鬼



 隠れる子鬼



 最初に見つかる

 


 子鬼はだあれ?




数え鬼、隠れ鬼









 「もーいいかい?」

 
 両手で目を覆い、耳をすます。

 周囲のどこからも音がしないのを確信して鬼はその手を外した。

 
 「よーし!ダンテー、バージルー行くからねー!」

 
 もう一度だけ確認にそう叫ぶと鬼はその瞳を凝らして二匹を探し始めた。

 土曜の午後からという特にする事のなくなった時間から始まったかくれんぼ。

 

 「かくれんぼしようか?」

 
 「「(かくれんぼ?)」」

 
 提案したのは

 小首をかしげたのはダンテとバージル。

 
 「が鬼するから二人が隠れるんだよ。

 見つかったら負けね」

 
 言う事を理解してこくりと頷く赤と青。

 
 「じゃあ十数えて‘もういいかい’って聞くからね。

 まだ隠れてなかったら‘まだだよ’って言うんだよ。

 隠れたら黙って動いちゃダメ、わかった?」

 
 再度こくりと頷いた双子に微笑み、背を向けて数え始めた。

 隠れる場所を見つけようと勢い良く羽ばたくダンテとは反対にバージルは俯き気味。

 振り返ってそれをみたダンテはくるんと反転してバージルの元へ近づく。


 「(なんだよ、浮かない顔だなお兄ちゃんよ?)」


 「(……俺は早く終わらせて本を読む)」


 ダンテは大体そんなことだろうと予想が着いていた。

 それをわざとらしく鼻で笑ってやる。

 もちろんバージルはきつくそれを睨みつけた。


 「(そんなこといってただ自信が無いだけだろ?

 アンタこういうの下手そうだもんな〜)」

 
 さらに視線を鋭くしたバージルがいい返そうと口を開きかける。



 




 「もーいいかい?」




 「「(まだだ)」」

  






 に振り返って応える。

 小さく「そっかー」などと呟くとは十から数え直し始める。

 
 「(ま、下手じゃないっていうんなら証明してみせろよ)」 

 
 バージルにそういい残してダンテは一目散にの自室へと飛んで行った。

 単なる挑発だという事はわかっている。

 こんなことで真剣になるなんて、とも思っている。

 が、わざと負ける気など更々失くしたバージルだった。

 
 の部屋へ飛んだダンテは机の引き出しに。

 キッチンへ行ったバージルはマグカップの中にそれぞれ身を隠した。



 始まって数分、は事の困難さにようやく気付く。

 普通の人相手とかくれんぼをするならもう隠れる場所は限られてくる。

 クローゼット、浴槽、ソファーの後ろ…。

 でも相手があの双子ならば話は別だ。

 コートのポケット、筆箱の中、本棚の隙間、調味料の棚の影…。

 彼らはそんな所にまで隠れられる。

 そう考えるとここはあまりに広すぎた。

 ちょっとばかり後悔しただが今更仕方ないと身近な場所から探し始めた。

 写真立ての裏側、ウォールポケット、置きっぱなしになっていた買い物袋…

 さすがにここには居ないだろうと思いながら壁掛けカレンダーも捲ってみた。

 リビングをしらみつぶしに探していくうちに段々と首がうな垂れていく。

 一箇所みればひとつ溜息、二箇所目みればもひとつ溜息。

 目元が潤んでくるのは右腕で擦ってこらえた。

 もう一度リビング全体を見渡して探してないところはあっただろうかと確認した。

 「……机の下…見てない、よね?」

 机の上のバスケットや買い物袋は確認したけど、とその身を屈めて中に潜った。



 ダンテもバージルもそれぞれ隠れた場所で欠伸をした。

 はまだかと耳をそばだてていたが、こちらに近づく気配はまったくない。

 引き出しの中をころころ転がりながら小さくダンテが呟く。

 
 「(…ーそっちじゃねーよ、こっちだこっち…

 バージルだってリビングにゃいないぞ、多分)」

 
 激しく転がる音も呟きもリビングまでは届かない。

 マグカップの中で大人しく体操座りで待っているバージルも呟いた。

 
 「(……そっちじゃない…そこには誰もいないぞ、…)」

 
 そっとついた溜息も呟きもリビングまでは届かない。

 リビングを探すだけでこれだけ時間がかかるのだ。

 自分が見つかるのは何時になるやら。

 そんなことを二匹が考えた時だ。

 

 


 ――ゴッ

 

 


 くぐもった、鈍い音が聞こえた。

 何の音だと疑問符が頭上に浮かぶ。

 次に耳に飛び込んできたのはの声。

 

 



 「―――うう〜っく…う、」

 

 



 それは紛れもなくしゃくりあげている声色でしかなく。




 「「(っ!)」」




 ――ガシャン

 ――パリン

 

 堪らず飛び出した二匹はそれぞれ騒音を奏でた。








 「これで大丈夫」


 キッチンの食器棚の前では掃除機をかけ終わった。

 そのすぐ側でバージルが俯いている。


 「(……すまない)」


 の泣き声が聞こえて考え無しに飛び出した結果マグカップを落として見事に割ってしまった。

 バージルは自分で処理をしようと大きな断片を拾い集めた。

 が、小さな欠片はどうしようもなかった。

 自分のしてしまった失態は自分で責任を取りたい所だったのだが、

 の手を煩わせることになってバージルは苦々しい表情をしている。

 沈んだ声色に鳴くバージルにはその頭を撫でてなだめる。


 「気にしないの、ね?」


 やっと視線を持ち上げたバージルには笑顔を。


 「じゃあ次はダンテを手伝いに行こう」


 さあ、とバージルを促してキッチンからの部屋へ行く。


 「ダンテー片付い……」


 扉を開けて中を覗いた瞬間には苦笑した。

 ダンテはを真っ直ぐ見上げながら申し訳なさそうに鳴いた。


 「(…ご、めんな)」


 バージルと同じく飛び出したダンテは引き出しを引き抜いて中を散乱させてしまった。

 マグカップを先に片付けないと危ないのでこっちは自分だけで中身を集めては納めを繰り返していた。

 が、元より片付けが得意でないダンテ。

 が片付けていたように綺麗に中を整理できないでいた。

 不安気に見上げるダンテをバージルにしたように撫でてやる。


 「一緒にお片付けしようね」


 そう微笑むにダンテは苦笑いしながら頷いた。

 ダンテとバージルは散乱したものを集めてに手渡す。

 はダンテが既に集めたものや二匹が集めてくるものを納めていく。

 その流れ作業のおかげで片付けはすぐに終えた。

 引き出しを元の位置に戻しては二匹に向き直って軽く頭を下げた。


 「二人共、心配かけてごめんなさい」

 



 
机に潜って二匹がいないのを認識したは重い溜息を吐きながらそこから出ようとした。

 そこで体を起こすタイミングを間違えた。

 頭を机の淵で強く打って一瞬言葉も出なかった。

 先程からこらえてきたもどかしさはその痛みが手伝って涙に変わる。

 嗚咽を抑えきれずただただ溢れてくる涙を拭っているとキッチンと自分の部屋辺りから物音がした。

 なんだろうと、顔を上げた時にはもう二匹はの目の前に来ていた。


 「(大丈夫か、!)」

 「(何があった?)」

 
 涙で歪んで視界は良好ではないが赤が右目の、青が左目の涙を拭ってくれたのがわかった。

 それで落ち着きを取り戻したは少し照れながら笑って見せた。


 「頭打っちゃった…」


 が笑ってホッとしたのか。

 机に頭を打つという失態がおかしかったのかはわからないが。

 二匹はを見つめながらフッと口角を持ち上げた。

 

 の謝罪にその時と同じように笑う二匹。


 「これで皆おあいこだ」

 「(そうだなー)」 

 「(仕方ない)」

 「うーん…かくれんぼやり直す?」


 尋ねるに首を横に振ったのは赤も青も一緒でした。

 






 泣いた子鬼

 

 慌てた子鬼

 

 最後に笑った

 

 子鬼はだあれ?  

 











 心配してくれて「ありがとう」もちゃんと笑顔で伝えたかったよ。
 
 




 カノエさんが書いて下さったんです、素敵なチビ’sを。ホントに可愛くて!
 こちらからお礼と申し出たのに遅くなってしまいました。すみませんっ
 「戯れる夢」ってことだったのに、何故か…かく
れんぼに…(ごにょ)
 す、スキンシップが少ない…っ
 遅くなった上にこんな話……orz
 こ、心はしっかり込めましたっ
 カノエさんへ捧げさせて頂きます。