病気になると心細くなるというのは本当で
彼の取っている行動は嬉しいものなのですが
「……バージル」
「…どうした」
「………どっちかにした方がいいと思うよ……」
少し掠れる声でも忠告はきちんと届いたでしょう
外に飛び出して数時間
彼が帰ってくるまで冷気に体を晒した結果は
もちろん自分に返ってきたのです
熱が上がるおかげで視界は歪み
体に力が入らないので自力で起き上がることもできないのです
私は当然お休みをもらい
彼もつききりの看病をしてくれているのです
本当は仕事が入っていたはずなのにそれを弟にまかせて
彼にも彼の弟にも申し訳なくなったのは私なのです
それは言葉にせずとも彼に伝わり
「…気にするな」
優しい声が降って来たのです
‘家庭の医学’という本を片手に一通りの世話と処置が終わると
彼は休日と同じようにベッドサイドに縋り別の本を読み始めたのです
ただ、いつもと少し違うカタチで
左手は本を支えながらページを捲るのです
右手は力の入らない私の左手を握りしめるのです
日頃も特別に熱を持たない彼の手は
今の私には気持ちの良い冷たさなのです
一人ではないことを実感させてくれるのです
が、やはり片手でページを捲るのは容易でないでしょう
そこで彼に忠告をしたのです
私は側にいてくれるだけで十分なのです
だからそんな煩わしいことをせず普通に読書をすれば良いでしょう
そういう意味を込めてそういったのです
彼はそれを解かっているのですが
読みかけの本を静かに閉じて
両手で私の手を握るのです
「…本、読まないの……?」
「……手が冷えた」
そういった彼の両手は確かに私の体温を奪うのです
少しずつ、少しずつ
熱に参っている筈なのに表情が綻んでしまうのは
彼の手の冷たさが心地よいからでしょうか
彼が照れと気遣いを隠す言い訳にそれを利用したからでしょうか
彼が側にいてくれることが純粋に嬉しいからでしょうか
きっとどれも正しいのです
「…」
瞼に落とされた口付けの柔らかさに目を閉じると
「もう眠れ」
意識は簡単に飛んでしまうのです
本当はもう少し彼の手を意識していたかったのに
でも大丈夫なのです
それを知っている彼なのです
私が眠る間も少しずつ体温を奪ってくれるでしょうから
眠った先の意識でもきっと
彼の指と私の指は
2.6℃
指先が
手のひらが
熱を奪い、奪い合われる
その心地良さは温度差のせい
前回の続きでお兄タンに看病してもらいました。
ミソは‘家庭の医学’!(そうだったのか)
タイトルはそのまま「温度差」から。
ヒロインの熱は高めです。
お兄タンは最初片手に本、片手にヒロインの手と
器用なことできるんだなぁって(自分で書いてるのに!)思った。
けど、絶対本読めてないです。
捲るときにあくせくしてたに違いありません。
捲ろうとしても捲りきれずに本に皺が出来そうになって
「……くっ…」って(笑)